いわゆる一つの策謀
「とりあえずの問題は一つだと思うのよ」
明らかに深刻さの欠片もない声で、お下げの少女がひっそりと囁いた。
その横で、同じ年頃の少年がこちらは顔を引きつらせる。
「問題、って……」
今まで、この少女――ベルヒトの思いつきには散々に振り回されてきただけに、一瞬身構える癖がついてしまっている。ついでにいうならその後のフォローという役回りもだ。
「だって、せっかくニコルもブリギッタもようやく、ようやくよ? 自覚したの。なのにあの進展のなさは何? それが問題でないならシンメル、<ゲンセ>に問題なんて一つもないことになるわよ」
少女特有の思考なのか、それとも彼女特有の思考なのか。
そんなことを考えながらもシンメルにとってもその「問題」は非常に気になるところではあったために、先を促さずにはいられない。
「それで?」
「要はもっと二人の時間を作るべきだと思うのよ。私たちがお邪魔虫になるのも嫌だし。それとなーく、そういう機会を作るの、どう?」
「どうって…………」
それだけで進展が見られる二人ではなさそうな気がする。非常に。
ルーはともかく、ニコルがああいう性格なのは直らない、と思う。いや、直るのなら歓迎するところなのだが。自分の家族は彼らしかいないのだ、その彼らが幸福になるための変化なら何だって歓迎する。
しかし自信たっぷりにこちらを見るベルヒトを前に、シンメルの思考が口から出ることはない。
「まあ、協力はするつもりだけどね」
――結局のところ、振り回されるのも悪くないということなのだろう。
マイナーを極めるつもりですか自分。
『A/Bエクストリーム』より二巻ゲストキャラ二人の会話。
設定と会話を楽しめるSFです。燃えです。お奨め。
030405