暗闇の中、二つの黒い死神が空を切り裂く。
一つは赤いラインの死神。描かれた文字は【A】。
一つは青いラインの死神。描かれた文字は【B】。
無骨な全制空戦用強化服。剣呑な武装で飾られた<ブラックゴースト>、その武装のなかでも一際目立つ大口径の砲身。重突撃兵装である大口径プラズマ火砲<ジャックポット>が眩いプラズマの奔流を発した。
一直線に向かうその先、建材に混じるかのように蠢くそれ。不定形の怪物である。
正体不明の害獣であり、<ゾーン>に巣食う厄介物であり、彼らの標的、と同時に飯の種でもあるそれは、<グレムリン>と呼ばれている。
そして彼ら、二つの死神は、<グレムリン>を狩る駆除屋である。
「あらら」
赤いラインの死神が呟いた。
轟音とともに襲い掛かったプラズマ奔流は、間違いなく<グレムリン>を貫いた。ついでに、周囲の外壁を巻き込んで。
「ちっとばかしサービスしすぎたか」
《無料奉仕はほどほどにすべきだね》
すかさず指向光通信で相棒の声が飛んでくる。並行に飛ぶ、青いラインの死神。
《そのうち仕事までサービスになってくる》
《よしてくれ、冗談じゃない》
皮肉げな物言いに軽く肩をすくめてみせ、こちらも指向光通信で返しておく。
眼下で蠢く標的から意識は外さず、【B】の死神が同じく腹部の砲身をそちらへと向ける。直下に放たれた奔流は先程より出力は絞られていたが、かわりに辺りに被害を撒き散らすこともない。
《よっしゃラスト!》
今度は【A】の死神が流れるような手付きで武器の換装、射撃体勢の完了。照準を合わせるまでに要した時間は僅か二秒。そのまま<ドゥー・イン>特装機関砲が火を噴いた。
マズルフラッシュが幾度となく瞬いたその後には、壮絶な爆炎。
<グレムリン>を中心とする炎はやがて収束し、灰も残らず怪物を消し去った。
「ん、終了」
本日最後の<グレムリン>を片付け、妨害電波の影響から逃れると、【B】の死神、ボギーは早速肉声での会話に切り替えた。
「延焼なし。……まあマシな方かな」
「マシってなんだマシって」
今度は【A】の死神、アンディが同じく肉声で返す。
《あんまり被害出すと、本当に社長から無料奉仕させられるわよ、ってこと》
回復した通信の、一つのチャンネルから聞こえる少女の声。
《そーいうこと》
とは、ボギーの言。
天使の輪のその向こう、境界面を超えた空間は<ゾーン>と呼ばれる異次元ポケットになっている。発生が容易で、内包物の重さや外部からの影響を一切受けない空間。
だが、その人類にとって様々な恩恵をもたらす理想郷には大きな泣き所が、ある。
その発生のメカニズムはいまだに分かっていない。<ゾーン>内の大エネルギーに現れ、設備を破壊するそれを、人は<グレムリン>と呼称し、そして<グレムリン>を駆除を生業とする人々が存在する。
現代における花形業種、駆除屋(エクスターミネーター)である。
《ちぇっ、商売の基本はサービスだぜ》
「生憎ながら売り切れで」
《同じこと、社長に言ってみれば?》
ボギーに続き、通信の向こうで少女が笑う。
愚痴るように呟いたアンディの顔が途端に渋いものに変わる。
《……キット。それだけは、勘弁》
《きっとサービスの尊さを教えてくれるね。実地で》
今度は通信にも乗せて、ボギーが意地悪く返す。
《そうそう。下手なこと言わないのが身のためってね》
キットと呼ばれた少女が帰還手順を示しながら、ボギーに同意した。
突入要員二人はその言葉に大きく頷いて、境界面に向かって駆ける。
境界面の近くの駐機場、そこに待つのは二人の死神を運ぶ浮遊艇<チャリオット>。
「やれやれ、サービスってのは人に喜ばれるもんじゃないのかね」
「僕らの場合、相手は人じゃないけどね」
アンディとボギーは軽口を叩きながら、<ゲンセ>へ戻る船へと飛んでいく。
曲者と強者の巣窟「ディビジョン駆除商会」、いつもの日常だった。
なんとなく戦闘描写が書きたかっただけという。
小粋な遣り取りは無理です。なんであんな素敵かなー……。
050902