トラップしたボールは、狙い違わず足元へと正確に落ちてくる。
 あれから半年。



 Dragon days,after





 リフティングは現役時代とほぼ同じ回数をこなせるようになった。
 まだまだ試合に出れば体力の衰えを感じるが、勘は大分取り戻した。
 背負っている番号は、あの時よりも遥かに数を増やしている。



 向かってくる右サイドバックを振りきり、ルックアップする。
 相手DFが二人、ゴール前にはりついている。
 スリーバックのもう一人はこちらのFWをしつこくマークしている。
 カウンターで敵サイドに先陣を切って上がったものの、ツートップの片割れが上がって来るまであと少々。


 再びミドルレンジからのドリブルを開始する。向こうのボランチがタックルを仕掛けてくる。
 ようやく上がってきたFWに向けてパス――と見せかけ、ヒールでのバックパス。
 こちらのボランチが受け取ったのを確認して、敵の目を攪乱するためにスペースに走り込む。



 しかしながら、ボールがFWに渡る事はなかった。



 こちらのボランチが出したパスは、あっさりと向こうのMFに遮られた。
 逆カウンター。
 慌てて守備に戻るが、そこまで敵は待ってはくれない。
 DFのところまで食いこんできたボールは、間一髪、ゴールポストに弾かれた。
 しかし、執拗な攻撃がペナルティエリア付近で続く。こうなってはダイヤモンドの陣形も意味をなさない。


 敵陣のゴールが遠く感じた。



結局、前半のチャンスはあの一度で終わった。




 ハーフタイムが終了し、センターラインを割ったのは相手側。

 そのまま真っ直ぐ突っ込んで来るFWに、フェイントを織り交ぜてなんとかボールを奪おうとする。
 軸足に力をこめる。
 一瞬の躊躇のあと、嫌な予感を振り払うように前に飛び出す。相手の股下を突き破り、攻撃の突破口を開く。
 左のサイドバックが走り込むのが見えた。
 スペースに向かって蹴り出す。



 均衡は、破られなかった。




 時刻はまだ夕暮れには早いが、冬の日の落ちるのは早い。
 視界の端は赤に染まり、吹く風は幾分冷たい。


 「羽井くん、お疲れさま」


 藤谷瑞海が声を掛けてきた。
 そういえば昨日電話した時に、見に来ると言っていたような気もする。


「結局引き分けね。スタメン初試合の感触は?」


 マイクを向ける振りまでつけて、ごくごく真面目な表情で茶化してきたのは宮居美季だった。


「やっぱり、昔と同じ、ってわけにはいかないな」


 首に掛けたタオルで汗を拭いながら言う。
 早く着替えてしまわないことには、寒風で風邪をひきかねない。


「当たり前じゃないの。それを分かってやってるんでしょうが」


 呆れた声音には苦笑するしかない。


「まあ、ぼちぼちやってくさ。着替えてくるよ」
「寒いんだから早目にね」


 踵を返して行く前に、ちらりと瑞海の表情が見えた。美季の悪態に苦笑している。
 手を振って同意の意志を見せてやった。


 28番が背中に張りつく。


「やっぱりアイコンタクトはあいつみたいにはいかないな」


 呟きは誰にも聞こえなかっただろう。




 急いで着替えて戻ると、二人の影が長く伸びていた。
 瑞海と美季の頬が赤いのを見て言う。


「ラーメンでも食いに行くか」
「勿論、羽井くんの奢りなんでしょうね?」
「藤谷さんだけならなぁ」


 貴士が言い終わるのと、美季がその足を蹴るのが同時だった。
 瑞海が吹き出した。



 空を見上げると、雲が高い。
 そこにはもう、竜は飛んでいない。


 左足が疼く事は、もうない。




 これまたマイナーですが。
 マイナー街道第二弾という事で。

 今回、サッカーの試合書くのは楽しかったんですが、貴士ってポジションどこなんでしょうか。
 一応中原中では10番だったのでMFかなと思ってそのつもりで書いたんですが。
 9番が小城竜裕で塚本が11番、この2人がFWだと思うので。
 少なくとも9番の小城はFWなんですがね。

 ちょっと変則的な書き方にしてみました。
 消化不良なのでいつか書き足すかもしれません。


 02/02/05 初書