ラストパス
ひらひらと落ちる花弁に、貴士は思わず溜息をついていた。
大した理由もない、半ば衝動的なものだったが、途端に背後から一撃を受けた。
「入学式にんな暗い顔する奴があるか! しゃきっとしろ、しゃきっと!」
「…………竜祐」
予想外にダメージの大きい一撃に、背中をさすりながら恨めしげに友人の名を呟いた。
そんなことは一顧だにせず、小城竜祐はこきこきと肩を鳴らしている。式の最中はお互い、真面目にやたらと長い話を聞いていたのだから、肩も凝るというものだろう。
見回すでもなく、校舎に屯する自分たちと同じ新入生は皆、一様に疲れた様子を見せている。それでも、そこに暗さはない。文句を言い合いながらも、新しい環境にどこか浮くような空気がある。
澱のように蟠る何かを抱えているのは、多分自分以外にはいない。
「なぁ、お前部活どうするんだよ?」
期待に満ちた表情で竜祐が尋ねてくる。あまりにも予想と違わない様子に、貴士は苦笑と――幾ばくかの諦念を混ぜた声音で応じた。
「ああ……帰宅部だよ、多分」
「多分て何だよ。――なあ、お前、本当に辞めるつもりなのか?」
これも、もう何度も聞いてきたことだ。
しつこいとは思うが、それを鬱陶しいと思ったことはなかった。
そこに見える自分の諦めの悪さに、知らずのうちに苦笑していた。
「仕方ないさ。地区大会でそれなりの成績出してる学校じゃ、足の使えない司令塔に用はないだろ」
その台詞に、竜祐も黙り込んだ。彼も、ここのサッカー部のレベルを知って入学してきただけに、そう強くは言えない。
「それでも、俺は諦めないからな」
こちらを見ずに、竜祐が零す。何を、と訊く前に、指を突きつけられた。
「俺はお前のパスを何度だって受けてやる。だから、お前も俺にパスを出せ。――じゃなきゃ、フェアじゃねぇ」
その表情は真剣だった。ただ静かにこちらを見据えている。
中原中の点取り屋が、試合中とは違う本気を見せていた。
「…………フェアって、お前なぁ……。――そもそも前提条件が間違ってるだろう、それは。しかもくっせぇ台詞」
「悪かったな」
出来ることなら。
言いかけて、貴士はその言葉を飲み込んだ。「それ」が出来ないことは、自分が一番良く知っている。弱音を吐いたことはない。諦めの早さは、それを許さない自分のみっともないプライドを証明しているようで、それでも、足掻くことはもっとみっともないと自分に課してきた。
「俺は、待ってるからな」
澱を見抜いたように、一言。
「何か仕出かしてくれる司令塔は、お前だけだからな」
「――買い被り過ぎだ、そりゃ」
軽く放った言葉の裏で、傷が疼いた。
竜祐は、それ以上何も言わなかった。
もう、パスは届かない。
再録。
改めて、自分、こんなにこの話が好きだったのかと。
多分他にファンサイトないでしょうし……。
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