Will you be ready?





 そのときに、思ったのは。
 ――わたしが引き当てたのは最高のカードだった、ということ。




 恐らくは、その表情の下で彼が考えていることはこちらの予想と違わないだろう。何しろわたしだって同じ立場ならそう思う。というか、相手によってはふんぞり返ってやっても良いくらいだ。

 まあそれはともかく。
 彼は――わたしのサーヴァントは、一見さしたる興味も無いと言った風情でこちらの様子を窺っている。
 けれど、その目元が緩んでいるのと、ともすれば口の端が上がりそうになっているのとを見逃すほどわたしの目は節穴ではないのだ。まったく、正直でないというか。
 そういう態度はあまり好きではないのだが、まあこの際大目に見よう。なんというか、これを前に腹を立てるのは勿体無い。
 …………なんだか、すっかり懐柔されているような気もしてくる。まあそれもともかく。


「うん、美味しい」


 というかむしろ絶品だった。
 目の前のテーブルに並んでいるのは我がサーヴァントによる料理の皿。
 そしてその製作者はといえば、もはや隠す努力は放棄したらしい、得意げな表情でこちらを見ている。以前なら腹の一つも立てていただろうが、ことここに至ってはそれは無駄だと分かっている。だからこそ、素直に感想を口にしたのだ。


「まあ、妥当な評価だな」


 頷きを一つ。
 ところで彼はサーヴァントで、そのなかのアーチャーというクラスの筈なのだが。


「料理が上手いサーヴァント、ね…………」
「何か不満か、マスター?」


 わたしの呟きを聞いたアーチャーが、むっとしたように訊いてくる。


「別に、才能は有るに越したことはないけど」


 ここまで甲斐甲斐しいサーヴァントというのもどうなんだろう。というか、こうまで家事全般が得意な英霊というのは聞いたことがない。まったく、正体不明もいいところだ。
 お陰で美味しい料理にありつけるので、それ自体に不満があるわけでは決して無い。
 ただこう、聖杯戦争という殺伐としたなかにあって、しかもその魔術師に仕える武器であるサーヴァントが家事をこなすというのはどうだろう。
 とっても助かるという実利的な点はさておき。

 ――案外、割烹着でも着せてみたら似合うんじゃないだろうか。


「…………ぶっ」


 思わず想像してしまった。
 これは凶悪だ。


「マスター?」


 ああ、駄目だ。今顔を見たら爆笑してしまいそうだ。
 不思議そうに、というよりも訝りながらアーチャーはこちらを覗き込もうとする。
 そうはいかない。手で顔を覆って身体を折り曲げてその衝動を押さえ込む。
 しばらくして、なんとか笑いを引っ込めることに成功した。


「マスター、どうかしたのか」
「何でもないわ」


 平然と答えて、わたしは食事を再開する。うん、美味しい。


「魔術の行使には気力と体力を消耗する。これから更に争いが本格化するだろう、体調管理は怠るべきではないぞ、凛。常時万全の状態であるように心がけるべきだ」
「分かってるわ。とりあえず、気力に関しては、――今度割烹着を探しておこうかしら」
「は?」


 くすくすと笑いながら言うわたしの言葉に、アーチャーは更に怪訝な表情になる。けれど、それにわたしは答えない。代わりにこう言っておく。


「ありがとう、アーチャー」




 わたしの父が命を落とした、聖杯戦争。
 同じ道を辿るつもりはないとはいえ、その可能性は充分に現実性を帯びてわたしを取り巻いている。
 父と、そのサーヴァントとの関係がどういうものだったのかわたしは知らない。
 けれど、少なくともわたしはわたしのサーヴァントと、こうやって一緒に闘っていくことが出来る。それは戦いの場だけではない。
 覚悟は――当然、出来ている。
 だから。


「さあ、覚悟は出来ている?」
「無論だ、凛」


 わたしは、引き当てた最高の――最強でも最優でもない、わたしにとって、最高のサーヴァントに笑いかけた。




 メモ帳より再録。少しだけ加筆修正も。
 プレイ後となるともっと燃えな話も書きたくなりますが、これを書いた時点では体験版のみしかプレイしてなかったのでまあこんなもんですか。整合性を考えると凛ルートか。
 しかしまあ、本編とはなんか違ってますね。プレイ前の捏造とはいえ。


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