待ち人来り
さやけき月の光が冷たく身を照らす夜。
夜の最中というのに、姿が露にならんばかりの眩さは無慈悲の行いだろうか。
――いや、もとより隠れるつもりのない身。影を落とすほどの明るさもそれはそれで興趣がある。霞に浮かぶ朧月とまでの風情はないが、この先を思えば風情に浸っている場合でもない。
男は、静かに月の下で佇んでいる。
幽鬼じみた静謐さを漂わせ、ただ山門に独り。
見下ろす月も、素知らぬ顔で影を作るのみ。
先ほどから何やら背後が騒がしいが、男にしてみれば然して食指も動かされぬ。いささか風情に欠ける趣きではあるが、そのような瑣末事を気に掛けることこそ無粋。
それよりも、この先に訪れる客人を如何に持成すかを思う方が、余程興がある。
男の手には、月の光を弾く刃金。
花は斬った。風はどうであったか。飛ぶ鳥すらも、落とした。
だが月は。
「まだ届かぬか」
冷たく照らす光は届くのに、こちらの伸ばした手は届くことがない。
月を落とす――
或いは、叶わぬ夢。
そうして、月が翳る。
影が揺らぎ、興が削がれた。無粋と、そう思ってから気付く。
無慈悲の光は聊かの変わりもなく山門を白々と照らしている。
――揺らぎを見せるのは男の身。
く、と嗤いが洩れた。月は変わらぬままにある。そうでなくては。
でなくては、堕とし甲斐がないではないか。
だがさすがにこの身では叶わぬ夢、せめて希うは。
「よくぞ間に合ってくれた、セイバー」
――待ち人、来たる。
再録。
あとまともな英雄王とかも書いてみたいんですが。なんか無理そう。
040519/040920