夢





 その決意は、あの夢を見たときからすでにあったのだ。



 荒涼とした世界はただ無機質な標が立ち並び――どこか、無数の墓標を思わせた。
 乾いた砂の匂いに混じり、血の匂いが鼻腔を刺激したような気がする。多くの血を啜った標の群れ。それは彼が作り出した虚構であり、虚ろなるものにして人の血を啜ったのだ。そして、彼自身もその姿に同じく赤い色を幾度となく流してきたのだろう。
 人が有する記憶の最も古いものは、嗅覚に関するものである。
 いつだったかそんな話を聞いた。
 五感の中でも一番記憶に直結しているのだろうか。だとしたら、やりきれない。
 この世界は、目に見えるのは無数の剣器の群れ。耳を過ぎるのは荒涼とした世界が軋む音。錬鉄の空気は肌に優しくはなく、到底吸って気持ちの良いものでもなさそうだ。
 ただ微かな血の匂いだけが、人を想起させる。他者のものであり、また己の流したものでもあるそれだけが、人という存在を思い出させるだけだ。

 心象風景というにはあまりにも――苦しい。

 だから、この世界を見て彼女がまず覚えたのは怒りに他ならなかったのだ。


「だって、誰かのために自分を捨てて、それで他の誰かが助かっても自分が助からなきゃ意味がないじゃない! 皆を助けたかったら、まず自分が助かりなさいってのよ!」


 錬鉄の空気が喉を焼く。それでも、届かないと分かっていても言わずにはいられない。


「皆で助かって、大事な人が助かったのを見て、自分が助かったのを喜んでくれて、それが幸せってもんでしょう!? 自分ひとりが犠牲になればなんて、他の人間のことを馬鹿にしてるわ! ……アンタがいなきゃ、意味がないかもしれないじゃない!」


 これは夢だ。
 だから、彼女はここで叫ぶ。
 届かないからこそ。


「見てなさい、アンタ一人でなんて死なせやしないんだから……思いっきり生きて、幸せだったって言わせてやるんだから!」


 そしてそのどちらもが間違いではないと言わせてみせる。


 やがて記憶は薄れ現との境が曖昧になる。
 それでも、この決意は変わらず、現実になる。




 そしてUBW編。
 公式では爆弾投下。もしくは燃料か?
 ともあれ自分でもよく分かりませんが今更赤主従話第三弾。


 041117