目を惹かれて、その後はもうどうでもよかった。





 駅前に屯するのは高校生が多いが、その多くは飲み込まれるように駅へと消えていく。同時に、吐き出すように多くの人も出てくるのだけれども。
 東糀駅のコンコースは土曜の午後だからなのか、人で溢れ返っている。
 ただし、ガードレールのある一角の前だけは極端に人の密度が薄い。



「――さすが篤、人間人除け機」
「うーん、面白いくらい皆さん早足ですな。ヤクザの眼光は伊達じゃない」


 うんうんと頷くのは浅野で、それをけたけたと飯島が笑った。
 両脇を固める友人にそれぞれ仏頂面を見せてから篤は唸る。


「黙れ。いい加減俺にくっついて回るなっての」
「おお、怖い怖い」
「駄目だろ一般人怖がらせちゃあ」


 言う台詞の割に平気な顔をして二人揃って笑う。
 まったくと口の中で呟いて、篤は明後日の方向を向いた。




 ――とにかく強い目だった、というのが第一印象。

 それから、虚勢でなく本当に強いとわかった。いや、多分虚勢だったのかもしれないけれど、それでもそれが強さになる、芯の強い人間だ、彼女は。
 多分、意志も強い。これはあのゲームで嫌と言うほど知ったのだが。真っ直ぐなのは目だけではないらしい。見ているこちらが驚くくらいだ。そして心臓に悪い。
 少しぐらい話してくれりゃいいのに、と考えて、それは信用されてないんだな、という結論にすとんと落ち着く。いつかの思考の繰り返しだ。

 でもまあ、信頼というのは難しい、と思う。
 裏切られたことのある人間なら、尚更。
 そこは自分の真剣さに依るところだ、頑張るしかない。



「――うっしゃ」


 ばちん、と拳を打ち鳴らした篤に、浅野と飯島が揃ってのけぞった。


「うわなんだよ、喧嘩でもすんのかよ」
「俺、警察に面会に行くのは勘弁な」


 両方向からの台詞に、篤はにやりと笑って腕で攻撃を仕掛けた。が、さすがにそれはかわされる。


「馬ぁ鹿、んなわけねぇだろが」


 腕時計にちらりと目を走らせて、しゃがみこんだ二人に言う。


 勝負は、自分と。
 審判はいつ下るか分からないけれど。


 やたら気合の入った友人に、両脇の二人は揃って顔を見合わせた。




 どうしようもないことというのは、確かにある。
 それは、周囲の環境だったり、誰かの行動だったり、――或いは自分の感情。

 いとも容易く何かに縋れる「強さ」を持ち合わせない自分に対する苛立ちや、恐怖や、憎しみや、悲しみ、そのなかに紛れている何かを強く持てる人間はそうはいない。
 尚美は、多分自分でもよく分からないけれど、それを見つけたことは一つの終わりを示しているのではないかと思った。何か、自分のなかで区切りのようなものがついた。それが良いことか悪いことか、そんなものは分からない。

 ただ、終わってしまったのだ。何かが。
 穴のあいたような、それとも何か別のものが生まれたような、奇妙な感覚が身体を満たしているのはきっとそのせいだ。
 無条件に溝を埋められるほど、子供でも大人でもない。

 多分、そういうことなんだろう。



「長谷川くん。私ね――」



 繋いだ掌に込められた力に、口を開く。
 熱を持たない周囲のざわめきのなかで、そのままの距離の間にだけ、温度がある。





 「ダイスは5」より終幕直前・直後。
 やっぱり某所から再録、ついでに加筆。
 なんでかわかりませんが、この話は凄く好きです。

 そしてやっぱりマイナー……。


 030407/0516