ぼんやりと見上げた空はとにかく青かった。
 視界に入る桜から花弁が幾つも舞い落ちるのに印象を重ねる。
 無駄なことだと解ってはいるけれど、多分それは悪いことではない、と思う。
 けりをつけたと思っていた感情は、実はまだ体の奥で燻り続けている。それを知ったのは手紙を読んだとき。読まなければ良かったと後悔する自分がいないことに安堵した。
 何でかって、そりゃあもう。
 やっぱり残り火が燻っている。
 でもそれはきっと、彼女がいたという実感なんだろう。輝幸はそう思うことにしている。ただ、心がけていることが実際に出来ているかは大いに怪しい。
 みっともないぐらいに泣ける自分がいたのも、彼女のおかげだと思うと嬉しいのか哀しいのか解らなくなる。結局はどっちもなんだろう。そこで泣くのも泣かないのも自由だし、それを強制する権利はどこにもないけれど、そうやって悼むことが出来るということ、その存在、それらが今の自分だ。
 なんだか格好付け過ぎな気がしてくる。笑うかな、真純。
 そう考えて輝幸は笑った。随分久しぶりな気がした。
 それから、顔を顰める真純の顔が脳裡を過ぎった。
 目の前を過ぎていく一片は掴もうとしても掴めない。
 やっぱり印象が重なった。
「テルさん、なに物思いに耽っとるんですか。似合わん似合わん」
 前方でひらひらと手を振る島がそう言った。
 そういう島こそ参考書が似合わない。予備校に通っているだなんて嘘だろう。言おうと思ったがそれを言うには島の方を向かなくてはならない。
 さて、明るすぎる春の空に言い訳になってもらおうか。
 メモ帳より再録。
 『ハーツ ひとつだけうそがある』より。
 マイナーすぎて自分でもどうしようってな感じですが。
 030410/040117