定め





 花を散らすものは何時だとて決まっている。


 翻って考えてみるに、あの鍛冶師はどこまで見抜いていたのだろうか。

 偶然を偶然と思わせぬ、あるいは必然とすら思わせる人物だけに、不思議と再会を受け入れていたが、この時期に見える機会があるというのは尋常ではない。
 恐らくは双刀の末を予見していたのか。
 否。彼は即座にその思考を否定する。

 知っていたのだ。

 何時からなのか、それは既に知りようのないことだが、きっとそれは道が分たれるよりも遥か以前。彼女はこの結末を知っていた。
 彼女であれば強ち有り得ない話でもない。そんなことを臆面もなく思わせてしまう、それこそが彼女なのだから。
 かといって、意のままに踊らされていたようには思えない。
 何故ならば、そこに彼女の意思がなかったからだ。
 踊っていたのはあくまでも自らの意思でだ。傍から見ればさぞかし滑稽な眺めだったことだろう。顧るに、我ながらつくづく愚かなものだ。

 ――或いは、踊らされていたというのも正しい。
 但し糸を曳いていたのは彼女ではなく。
 そもそもが可笑しな話なのだ。理由の如何を問うても不誠実な応えが返るばかり。それこそが己を絡め捕る糸であることに気付こうともせず、踊らされ、その意の向くままにこの場へと辿り着いた。
 手段と目的とを等しく扱う男に対して理由など問うても無駄なのだ。
 それなのに、この期に及んで未練がましく呟きが零れた。慈悲など、期待していよう筈もないというのに。

 嗤いは己か相手か、どちらに対してのものだったのか。
 結局は、あの鍛冶師の知る通りの結末となる。

 ――花は風に散らされるが定めというものなのだから。




 刃鳴散らす、一周目より。


 060715