Call my name
本当のところを言えば。
後先考えずにとっとと呼んでほしかったのだ。
ウィル子は器用にも咲坂と対峙しながら気絶してしまったヒデオに膝枕をしてやりながら、内心は大いに拗ねていた。
千影にも言ったが、ヒデオが呼んでさえくれれば、それがどこであろうとすぐに駆けつける、そのつもりでずっと待っていたのだ。だというのに彼は最後までウィル子のことを呼んではくれなかった。
さすがにマスターに対する狙撃ともなれば、黙って見てはいられずに、呼ばれずとも出てきてしまったが。
そうなるよりもっと前、つらい状況はいくらでもあったのに、結局は最後まで呼んではくれなかった。
もっとこちらのことを頼ってほしい、というのは……無理な話なのだろうか。
(ウィル子は神様、はやめちゃいましたけど、マスターが言ってくれれば何でも出来るのですよー……)
散々魔眼だなんだと言われた凶悪な目つきは、今は閉じられているからかあまりそんな雰囲気はない。もっともウィル子にしてみればヒデオの目つきなど見慣れていて騒ぐものでもない。
さらさらとヒデオの髪を撫でていると、ささくれまくって拗ねていた気持ちも少しずつ落ち着いていく。
ヒデオはウィル子のしようとしたことを悪魔のすることだ、と窘めたが、そもそもが悪魔のような所業を行おうとしたのはどちらだ、という話でもあるのだ。
ウィル子にとっての至上はいつだってマスターであるヒデオで、それ以外などいらない。
だからこそ、好きに動けない神様なんてやめてしまって、いつでもヒデオを助けられるようになりたかったのに。
(マスター……、ウィル子では役者不足なのでしょうか……?)
ぼんやりと考えていると、周りにいた高校生らしき子供たちが好き勝手に物申してくる。
ヒデオがウィル子を呼ばなかった理由。
確かに、それは聖魔杯の間ずっとそばにいたウィル子には、手に取るように分かる理由だ。ヒデオらしいとも言える。
契約で結ばれた精霊に、人間同士の争いに巻き込みたくないからと手助けを求めない。
この優しいマスターがいかにも考えそうなことだ。
そしてそれは事実に違いない。
そんなことは分かっているのだ。
けれども、分かっていてなお、ウィル子は求めたくなってしまう。
(マスター、ウィル子はもっと頼ってほしいのですよー……)
もっとも、それをしないからこそ、ヒデオはヒデオなのだ、というのも痛いほどに分かっているのだが。
まあとりあえず。
貴瀬たちの車の到着を見て、ウィル子はひとまず思考に沈み込むのをやめることにした。
今は疲れ切ったマスターをきちんと休ませるのが第一だ。
それで、目が覚めたら今度こそ、こちらの名前を呼んでもらおう。
(さっきは名前、呼んでもらえなかったですからねー)
今回の不満はそれで帳消しということにしておこう。
エリーゼ辺りに聞かれたら笑われそうな気もするが、ウィル子にとってはそれで十分だ。
……もちろん、今のところは、の話だ。
レイセン完結記念。
やっぱりウィル子可愛いよウィル子。
150614