微睡のような浮遊感に、瞼を開く。






 肉体と意識の切り離された状態というのは、喩えようがない。
 実感がひどく薄いような気もするが――




「実感どころか、ここに居るということすら「本当」ではないんですよね」




 呟きに、声が返ってきた。
 それすらも、もしかしたら微睡のなかの夢のように本当は「ない」のかもしれない。




「あとはもう、消えるだけなんだけどね――レブルバハトはどこに往くのかしら、ね」




 透明な気配が傍に寄る。
 実体を持たない、意識の残滓。

 それでも、彼女が傍にいるということに幸福を感じる。



「ほとんどは私達と一緒に流されていくんでしょう? 残りは――再び眠りにつくでしょうね。いつか、目覚めることもあるでしょうが」

「その頃には、あの子達が穏やかに生きていけるようになるかしら」

「それがあなたの望みなんでしょう? 美春さん」




 彼が答えると、彼女は微笑んだ――ように見えた。
 実感が薄いとはいえ、自分がもはや何処にも存在しないということは、はっきりと理解している。
 こうやって会話をしているのも、意識がレブルバハトの影響で微かに残っているというだけ。
 ただ、記憶の再生ではないのがありがたかった。僥倖とさえ思える。





「まったく――あの人にここまで感謝する日が来るとは思いませんでしたね」

「あの人?」




 美春の問いに、真名井紳士は苦笑して――実際はどうなっているのか知ることは出来ないが、少なくともそのつもりで彼は続けた。




「あの愉快犯ですよ。おかげで色々と大変な目にも合わされましたが、一応約束は守ってくださったようです」

「ああ――なんとなく、想像がついたかも」




 交わされる会話は幻とはいえ、そこに変わらぬ彼女の姿が見えるということは素直に喜ぶべきことだと思える。
 あるいは、残滓と為った分、意識の束縛がなくなっているのかもしれなかった。

 この時間も、そう長くは保たないことが分かってはいるけれど。




「――そろそろ、かな?」

「そうですね」




 ――そして意識は欠片も残さず消えていく。




 蛇足。どうにも蛇足。
 すみません書いてみたかったんですごめんなさい。

 2巻は相当救いのない話だったんで、やはりこのラストの場面である程度浮上するのが印象的でしたね。
 上手く書けませんが(泣)。


 02/11/10 初書