出口で待つひと





「全く、あなたの行動にはいつも驚かされますが……」




 男はそう言って、苦笑を続く言葉の代わりとした。

 まだ若い、青年といって差し支えのない年頃のその眸には、不釣合いな老成の色が見える。
 項垂れる少女にはそれは見えない。顔を上げたところで、一時的な視力の喪失によって見た目にも、別の意味合いでもその「色」は今は見ることができない。

 ただ、降ってくる感情は嫌でも分かる。
 だから、項垂れる。
 拒絶や絶望、負の感情ではなく。




「…………ごめんなさい」




 ぼそぼそと、周囲の喧騒に紛れて届くか届かぬかの声で言う少女に、青年の笑みが一層深くなり、穏やかに言葉を紡ぐ。




「今回ほど肝を冷やしたことはありませんでしたよ?」




 悪戯っぽく笑みを含んだその声に、弾かれたように少女が顔を上げる。
 今は光を失った、色彩を捉えぬ眼が青年の顔を探すように彷徨う。




「――心配、かけてごめんなさい」




 もう一度、少女が深く項垂れると、その黒髪を撫でるように青年が手を置いた。




「無事で、何よりでした」




 にっこりと笑う紳士の前で、少女はひたすらに縮こまっていた。
 そんな様子に頓着するでもなく、彼の手は二度三度と少女の頭を撫でる。



 そこに見えるのは紛れもなく、親愛の情。




 再録。寄生月甲院編完結記念第二弾。
 日付から分かりますが、正規の発売日前だったので固有名詞なしの方向です。
 というわけで二組目はカーマインとネイでした。


 030208/030707