もう一つの帰着
場の空気が、全ての事態の収束を示すようにようやく緩和した気配を漂わせ始めていた。
代価は、決して低いものではなかった。
それを考えると事の収まりがついたと簡単に言ってのけられるものではなかったが、少なくとも今この時点でささやかな安堵に浸ることまで許されぬと、そう狭量なこともあるまい。
あるいは一つの決着が漸くついたのだ。
壁際にもたれかかっているのは単に疲れたからだ。
時間にすればそう長くない間のことではあったが、なにしろ動きっぱなしの上に常時気を張り詰めていたのだ。この場に合わせて気を緩ませるような性格でもないが、それでもこうして戦闘解除の状態に少し力を抜くことぐらいは、力の加減の関係で身に染み付いている。
見知った顔はいくつもその場にある。だが、壁際の体勢を守ったままだ。
旧知の仲間がすべて無事なのはもう分かっている。今更確認することなどない。
「け、桂君? 大丈夫? 怪我とかない?」
――ただ、物好きが一人いた。
「大丈夫だ」
素っ気なく答えると、それでも問いの主はほっとしたように胸をなでおろす。
「よかったぁ…………連絡が取れなかったから、真砂君や桂君がどうなってるのか、心配で――」
いまだ涙筋の残る顔に笑みを浮かべて、年齢よりも幾分あどけない表情になる。
「――由姫は無事だ」
無愛想なままに呟く。
だが、そんな少年の様子に慣れた彼女はあまり頓着していない。
赤く充血した目を細めて、笑った。
「ありがとう。桂君や真砂君、それからみんな――みんなのおかげだよ。助けてくれてありがとう。由姫を」
その言葉に桂はしばし言葉を止め――やはり無愛想なままに呟いた。
「…………ああ」
再録。寄生月甲院編完結記念第三弾。
そして三組目、桂と雅でした。
こうなったらいいなー、という希望的観測ですが(笑)。
030209/030707