午後のお茶会 受難篇
「解り切った正しさ、ねぇ…………」
柔らかに閉じられた双眸を持つ青年が、何とはなしにそう呟いた。
目の前で繰り広げられる修羅場――というか、焦っているのは一人だけなのだが――を「視」ながら、こちらはいたってのんびりとカップを口元へと運ぶ。
「なんなんですかね、それって」
今度の呟きには、打てば響くように叫びが返って来た。
ただし、いらえにはなっていなかったが。
「うわ、馬鹿! チョコレートを直火にかけるなッ!」
なにやら騒々しく返す声も聞こえてきたが、対岸の火事だ。
……今のところは。
先程から調理場で発生する騒音の数々が何を意味しているのか、これは見なくてもはっきりと理解できる。ついでに、定休日だというのに姦しく厨房で声を上げている少女達や、更に時折混じる店主の叫びで、より状況理解がし易くはなっている。
多分、状況が理解できない方が正解だろうが。
カップをソーサーに置くかたり、という音を合図に立ち上がる。
が。
「あら誠二くん。コーヒーのおかわりはいかが?」
見越していたかのようなタイミングで、銀髪の少女が彼の腕を取った。休日だというのにメイド服をきっちりと着込み、耐熱容器を片手に営業スマイルを浮かべているのが恐ろしい。
存外に強い力でこちらの腕を引いているその意図は、真昼の太陽よりも明らかで、真名井誠二はひきつった笑みを返すしかない。
「け、結構です。……っていうかもう六杯目…………」
諦めて腰をおろすと、植物相の名を持つ少女はようやく腕を解放した。
厨房を望むように眺めるその表情はきっぱりはっきり楽しげだ。
相変わらず聞こえてくる嬌声と悲鳴にも似た叫び声に、がっくりと肩を落とす。
後悔先に立たず。
受容と諦念は紙一重。
とりあえず解り切ったその言葉を心中に浮かべて、彼は大きく溜息を落とした。
殺伐とした話にどうしてもなりがちなので、たまにはこういうのも。
因みにフローラ以外は料理が苦手そうというイメージがあるんですが、どうでしょう。
まあ、ファウナと貴音ですし。詩乃がいまいち不明ですが。
030808/030929