鬼哭街

■Nitro+/ストーリーノベル/PC/18禁

――我は一刀に懸ける修羅。

ゲームというか、少し反則技ですが。
分岐点のないサウンドノベルといったところでしょうか。なので、厳密にはゲームではありません。
間違った未来。誰かが選択を誤った世界。
犯罪結社が牛耳る魔都上海。かつての仲間の裏切りにより死地を彷徨った幇会の凶手、孔濤羅が裏切り者でありまた最愛の妹の仇を相手に復讐の死闘を繰り広げる話です。
……なんか違う気もしますが。
私が奨めている割に、話の内容はとてつもなくシリアスです。武侠片、あるいはサイバーパンク、そのどちらかが好きだという方には割合しっくりとくる話なのではないでしょうか。

非道な手段で殺された妹の仇は、誰あろう自身の兄弟子にして妹、瑞麗の夫となった劉豪軍。幇会を牛耳り、最愛の妹まで手に掛けたかつての親友。
五体のガイノイドに電子化された瑞麗の魂が積まれていると知った濤羅は、かつての仲間が所有するガイノイドより妹の魂を取り戻すべく、単身、幇会の香主たちに対して、己を犠牲にする道を歩んでいくわけです。
肉体を機械化したサイボーグ武芸者に対抗する為の自身の技、紫電掌。使うほどに自身の肉体を蝕む技とて、妹が蘇っていくさまを見せ付けられては引き返せぬその先に向けるしかなく。
香主たちとの死闘は研ぎ澄まされた硬質な文章で紡がれ、その描写は昂揚を引きずり出すに充分なものを持っています。
そして何ゆえ豪軍は瑞麗を殺すに至ったのか。最後に待つその結末は、ある意味でとても官能的なわけですが、それは語らぬが花というものです。

およそとても一般的とは言い難い(プラットフォーム的に)作品ですが、昏い情念渦巻く話に魅力を感じる方には受け入れられるのではないでしょうか。
話の長さ、お値段ともにお手頃です。

ちなみに18禁ですが、主人公はまったくそういうシーンに絡んできません。あるとすれば妹の身体(といってもガイノイド)を清める実に変態的(本人は至って真面目)なシーンぐらいですか。
狂気によって研ぎ澄まされた復讐の刃も、傍から見れば滑稽な悲喜劇でしかないというなんともまあやるせない話ではありますが、本人が幸せならそれもいいかと思えてしまうあたりがシナリオライターのシナリオライターたる所以でしょうか。
好きなキャラクターは……難しいですが、可哀相な人ということで劉豪軍とか。もうちょっと頭が良いか馬鹿だったら幸せになれたんだろうに。