刃鳴散らす

■Nitro+/本格剣劇浪漫ADV/PC/18禁

相食む宿命の双刀の末は果敢無し散る花の。

同じニトロプラスの鬼哭街の系統にして後継たる作品です。
復讐譚ではあるけれど、こちらの主人公は復讐される側です。
また別の現代、銃ではなく刀剣による暴虐が蔓延る東京。武田赤音は戦場で見えた惨殺体を紛れもなくかつての兄弟子、伊烏義阿の手によるものと確信する。それは復讐の一念で砥いだ刃のような剣鬼の到来を告げる徴。
待ち焦がれた宿敵との再会から、決着までの話です。

シナリオは鬼哭街と同程度で、2周しても5時間ほどで終わりました。
手軽な分、どうも食い足りない部分は確かにありますが、話の大筋はきちんと描かれていると思います。舞台設定があれこれありますが、主軸となる二人の避け得ぬ闘い以外はすべておまけのようなものです。
とはいえ、この設定でもうちょっと色々と見てみたい気もしますが。
音楽は相変わらずいいところでいい曲がかかるようになっています。今更出来を疑う人はいないでしょうが、やはりさすがのクオリティ。ED曲の「蛍火」が聴きたいが為に買ったようなものでもありますし。
システムは可も不可もなく。標準的なADVで必要な要素は全て揃っているのではないでしょうか。短く選択肢も少ないので、さほどあれこれと機能に頼る局面もありません。画面表示も普通に見難いといったこともなく。
この手のゲームにしては珍しく、徹頭徹尾三人称です。これが一人称だったらこういう雰囲気には合っていないでしょうから、正解ですね。ただしその分、主人公である赤音が何をどう考えていたのかというのは明確にされないままだったりします。想像の余地があるという捉え方も出来ますが。
悲劇の結末は幸福か否か。それも捉え方次第、ということでしょうか。

とまあもっともらしく書いてみましたが、それは一周目の話。
ここからは本当にシナリオの内容に触れてしまいますが、赤音が最後まで三十鈴を手にかけた本当の理由を言わないのは、言ってしまえば伊烏のそれまでを否定してしまうからで、二周目の展開よりも余程伊烏を大事に想っていることが分かると思うのですが。
伊烏との死合いより他に何も要らない、というその姿こそ雄弁に感情を語っているのに、わざわざ言わせてしまっては興醒めというものです。
三十鈴を殺してよかった、という台詞も感情面はどうあれすでに嘘であり、となるとその台詞自体の真偽が問われもするわけです。伊烏と彼女を並べるというのは紛れもなく二人に対する二心がないことを示していますし、結句あの試合で納得いく決着がついていたのならば、ということをも示唆しているのかもしれません。
そして狂気の殺人者のように呼ばわれる赤音も、実は伊烏と同じ夜を過ごしているわけで、その狂的とされる態度が虚勢である可能性もあるわけです。なまじ周りが見えている分、赤音は正気を保たねばならないわけですから。
赤音が伊烏しか見ていないように見えて、伊烏が赤音しか見ていない。……それを考えると実は二周目も決して間違いではない、のかもしれないと思えてきましたが、私の中で正当なるエンディングは蛍火の流れる方です。むしろそちらでは赤音が伊烏に恋慕の情を持っていたとしてもおかしくはないと思いますね。

とまあそういう話ですので、人を選ぶゲームではあると思います。そもそもが限定されたユーザー向けのゲームを作っているブランドですし、ニトロプラスというメーカーを分かっている方ならば納得もされるでしょう。
それと、戒厳の野望についてはまだ終わっていませんが、パラレルワールドとはいえ本編のエンディングからの延長線上にある内容ですから、どちらかといえば本編で書ききって欲しいと思いました。
この話で好きな登場人物を挙げるというのは難しいですが、あえて挙げるとするなら赤音ですね。伊烏一筋過ぎてそういうゲームの主人公としては如何なものかとは思いますが。